高齢者の口腔機能低下、最大2倍近いメタボ誘発のリスク

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食べ物をどのくらい効率よく咀嚼(そしゃく)できるかを示す指標である「咀嚼能率」。食事で噛む回数が多くても、この咀嚼能率が低いと食べ物を細かく噛み砕けない。一般的には歯を失ったり、加齢によってこの咀嚼能率は著しく低下する

国立循環器病研究センター、新潟大学、大阪大学では昨年11月に共同研究の一環としてこの「咀嚼能率」の低下とメタボリックシンドローム(メタボ、内臓脂肪型肥満)との関係性を示す研究成果を報告した。

それによると、「咀嚼能率」が低下している高齢者では、メタボを発症する割合が最大2倍近くまで高まるという。このような「咀嚼能率」とメタボの関係性が示された研究は世界でも初めてだ。

「口腔」の健康とメタボの関係性の『医科歯科連携』研究

肥満、高血圧、高血糖、脂質異常などの症状が複数重なるメタボリックシンドロームは、動脈硬化性疾患(脳卒中、虚血性心疾患など)を誘発するリスクを高めるもので、特定健診(メタボ健診)制度による検診が行なわれている。この「動脈硬化性疾患」は国内の死亡原因第2位を占めている。

近年、口腔の健康状態とこのメタボとの関係が注目されて、その関連性を明らかにすることで、動脈硬化性疾患予防にもつなげる『医科歯科連携』の研究が課題となっていた。

今回の共同グループでは、国立循環器病研究センター・予防健診部の宮本恵宏部長、小久保喜弘医長、新潟大学歯学部の小野高裕教授、大阪大学大学院歯学研究科の前田芳信教授、菊井美希医員らが共同研究を行った。

「咀嚼能率が低い」とメタボ罹患率は上昇

同研究グループでは、大阪府吹田市での大規模追跡調査「吹田研究」から無作為に抽出した50~70歳代(1780名対象)の中高年者(および高齢者)に基本健診と歯科検診を実施し、多変量解析によって年齢、性別、飲酒、喫煙、歯周病などを調整することで咀嚼能率とメタボ罹患率との関連性を分析した。 た。

「咀嚼能率」の測定では、参加者が専用のグミゼリーを30回噛むことで咀嚼された表面積を算出して咀嚼能率が「高い」・「普通」・「やや低い」・「低い」の4つのグループに分けた。

またメタボ判定には、「ウエスト周囲径(おへその高さの腹囲)が男性は85cm、女性は90cmを超える」かつ「高血圧・高血糖・脂質代謝異常の3つのうち2つに当てはまる」を満たす場合を「メタボ」とした。(2009年の日本内科学会によるものと同定義。)

その結果では、咀嚼能率が「高い」グループと比較して「やや低い」グループはメタボ罹患率が1.46倍高くなっていた

咀嚼能率低下で「70代」では最大1.9倍のメタボ罹患率

さらに年齢別で『70代』の対象者に限定すると、咀嚼能率が「普通」のグループで1.74倍、「やや低い」のグループで1.9倍、「低い」のグループでは1.67倍メタボ罹患率が高かったという。

この結果から咀嚼能率が最も低いグループが必ずしも高リスクとなっていないが、同研究チームでは「(噛めないことが意識できる)咀嚼能率が下がりきる前、噛めないことをはっきり意識できていない段階が危ないのではないか」と推測している。

同研究グループでは今回は因果関係までは判明していないものの、追跡調査を実施していくとしており、咀嚼能率の測定によるメタボのリスク評価の可能性が示されたともいえる。

公開日 :2017.01.26 更新日 :2021.10.06

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